583 ブーンが恐ろしい体験をしたようです New! 2006/06/17(土) 02:04:24.77 ID:MoRdzUXAO
( ^ω^)「さて、準備は整ったお」
 
僕は今、人生最大の決心をした所だ。
もしかすると僕は僕でいられなくなるかもしれない。別にそれでも構わない。
むしろ、僕が僕であることにどれ程の益があろうか。
むろん自身を捨てるという事は失うものも少なくないが、今は得るもののほうが大きいような気さえする。
 
じゃあ、始めようか。


584 ブーンが恐ろしい体験をしたようです New! 2006/06/17(土) 02:05:19.21 ID:MoRdzUXAO
事の始まりは三日前。
いや、もしかすると生まれた時から決まっていたのかもしれない。運命というものがあればの話だが。
僕は呼び出された。
 
顔色が悪く、ボソボソと喋る鬱病のような男。
いつも眉をハの字にし、たまに怖いことを言うホモセクシャルの男。
他人とは刺のある口調で接し、時折甘い言葉を囁く女。
 
いずれも友人である彼らと僕は毎日のように一緒にいた。
きっと、あの頃が僕の人生で最も楽しく、美しかった時だと思う。
その後、学校は違えど僕達は連絡をとりあって月に一度は集まるような関係が続いていた。
そしてそれはこれからも続くと思っていた。
…あの悍ましき悪魔どもの、甘美なる宴を目にするまでは。

585 ブーンが恐ろしい体験をしたようです New! 2006/06/17(土) 02:06:48.15 ID:MoRdzUXAO
そしてあの日。
僕は召喚された。
その時はちょっと気分が悪くて─何かの警告だったのかもしれないな─行くのをためらいはしたものの、結局行くことにした。そもそもこれが間違いで、家でジッとしていればよかった。
今言ったばかりだが気分が悪かった。
おかげで家から出るのは遅くなり、走る事もできないくらいだった。
 
僕が遅れて指定の場所に行くと、彼らは既に集まっていた。そして僕が来ない事に痺れを切らしたのか、地面にポッカリと空いた穴に入って行ってしまった。
 
あれはなんだったのだろう。
瘴気めいたものが溢れ出す穴、穴の前に立つ墓石のようなもの…。
何か胸騒ぎを覚えて気付かれぬよう、彼らの後を追った。

586 ブーンが恐ろしい体験をしたようです New! 2006/06/17(土) 02:07:47.79 ID:MoRdzUXAO
中はじめっと湿っており、濃密な瘴気は吐き気を催した。
階段を降りた所にすぐ、角があった。彼らの話声が聞こえる。
顔を出す訳にはいかない。発見される危険があるからだ。
それでも誰が何を話しているかは把握できた。
 
『やっぱりやめようかな…』
『もう遅いわ。ポーファットウィルスは既に───』
『え!?』
『シンパイスルナ、オレモヤッタンダ』
『大丈夫。私達の仲間になれば苦まずにすむわ』
 


587 ブーンが恐ろしい体験をしたようです New! 2006/06/17(土) 02:08:25.36 ID:MoRdzUXAO
息を潜めて聞いていると、今度は口にするのも悍ましい言葉を軽々と唱え始めた。それはさながら狂気めいたものだった。
 
『動かないでね。いぇあ ずぶろ ぬあぃやぁらぁたほていえぷ つがぁ────』
『ウォグ フタグン クリトゥリトゥ───』
 
二人が呟き始めると、僕は引き寄せられるようにその様子を眺めてしまった。
そのせいか二人の言葉ははっきりと耳に残っている。
この儀式のようなものが終わると、おののいていた男から震えが止まり、そして彼らは『食事』を始めたのだ。
その光景を見てしまった僕は、途方もない恐怖に駆られて逃げ出してしまった。


588 ブーンが恐ろしい体験をしたようです New! 2006/06/17(土) 02:09:17.55 ID:MoRdzUXAO
それから三日。
僕は後悔した。
ああ、なぜ僕はあんな所に来てしまったのだろう。なぜ、見てしまったのだろう。
あそこに行かなければ知る事もなかったのに。
だが僕は知ってしまった。
きっとこれから長くて数十年は生きるであろう人生の中で、この事を忘れやしないだろう。
この先、ずっとこの記憶を引きずりながら暮らしていくのだ。
数十年──とても耐えられるようなものではない。
今も奴等の悪魔じみた嗤い声が聞こえる。
 
……そうか、この苦しみから逃れる方法があるじゃないか。
それもすごく簡単な方法が。
 
 
『私達の仲間になれば苦しまずにすむわ』

inserted by FC2 system