661 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 10:55:05.78 ID:clEc7qra0
俺の心臓が緊張で大きく脈を打つ。

('A`)「…ふぅ、はぁ…」

思わず漏れるため息がやたらと大きく聞こえる。
騒々しい音が満ち溢れているわりには閑散とした室内。
俺は、それをじっと睨み付けて、唇を舐める。

『…一度や二度目じゃねぇ。いつもと同じにやればいい』

そう携帯に文字を打ち込み、自分を落ち着かせる。
心音と呼吸音だけが、今現在俺の鼓膜に語りかけてきていた。
獲物は動かない。ただまぶしいまでの輝きを放ちながら眼前に、悠然と存在している。
やれるものならやってみろ、と。

『ちっ、随分奥の方にあるな…。いや、だが…』

俺は俺自身に語りかける。
いける。これなら間違いなくいける。
コイツの性能なら絶対に奥まで届く。それこそ刺し貫くような感覚で、

('A`)「…うりゃ」

押 し 込 め ば 良 い !
俺の思うままに進んでいくアームが獲物を射程に捉える。
上から、えぐるように…いや、優しく包み込むように、ゆっくりと、降りて行く。
俺は固唾を呑んで、自分の腕を、分身を見守る。

663 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 11:00:02.06 ID:clEc7qra0
そうだ、いけ、そこに俺の求めたモノが、ある。
狙いは違わない。間違いなく掴めるぞ。よし、よし、いいぞ…。
そして、腕の先が獲物によく似たそれが群生する地平に沈んでいく。
どくん。どくん。破裂しそうなほどでかい心音。
はぁ、はぁ。酸素を求めてあえぐ肺。
引き上げられた腕の先に、果たして獲物は掴まれているのか…!?
緊張の一瞬だ。あまりにも硬すぎる唾を飲み込むのも忘れて我が相棒を見つめる俺。
そして…!!!




(*'A`)「獲ったあああああああああああっっ!!」




思わず小躍りしたね。
そりゃあもう手にした携帯を胴上げするように勢いよく上空に放り投げて。

664 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 11:05:43.44 ID:clEc7qra0
しゃがみこんで、子どもの様に胸を躍らせながら穴をにらみ、落ちてきた『獲物』を手に取る。
ぎりぎりで天井にぶつかった破砕する寸前で落下してきた携帯に、思いの丈をぶつける。

『よし、ニンゲンドーTSゲットぉぉおおおおお!』

ソレは箱だ。両手のひらよりもちょっと大きいサイズの箱。
白を基調にした下地の上に視覚攻撃か何かと勘違いしそうに毒々しいマゼンタカラーをした機械が写っている。
上下に備え付けられた液晶っぽい画面。
どういうわけか吐き気を催すほど濃厚に色づけられたスカイブルーのボタン。
十字キーと、A,B,X,Y、更にせれくととすたーとと描かれた小さなボタンもついている。
んで、箱の下部にはでかでかと文字が印字されている。
『ニンゲンドーTS』。
見るからにパクリくさい商品…いや、俺の獲物の名前が。

665 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 11:12:02.95 ID:clEc7qra0
『やったやったよ! やっとこさNTSの全カラーコンプリート!!
いやぁ長かったねぇ。ベタホワイトとポイズンパープルは前から持ってたけど、
何故かマゼンタレッドだけは今まで見つからなくてさぁ!!
っくぅ〜、ハンター冥利につ・き・る・ZE!』

やっぱり携帯で叫ぶ俺はしかし、骨の髄から溢れる興奮を抑えることなく全身で発散する。
腰を振り、南国のフラダンスよろしく「アロハ〜」などと機嫌のよさをアピール。
いつも絵に書いたような仏頂面をしている俺の顔はこんな状況でもあまり変形はしていないが、
やっぱりほおっぺたで餅でも焼けるんじゃないかってほど全身が火照ってきている。

感動だ。これで一つの目標をコンプリートできたわけで。

「…あのー」

そんな俺の感動に水をさす大馬鹿ヤローはどこのどいつだっ?
背後から申し訳なさそうに肩を叩かれ、控えめながら声をかけられたので、
俺は振り返って相手を確認する。

668 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… 遅筆ですまん。しかもミスったんだ New! 2006/06/15(木) 11:31:50.84 ID:clEc7qra0
その店員さんは見上げるほどでかかったが、決して強そうなイメージがあるわけでもない。
腰は低くて顔も凡庸、ただし目線だけで俺に早く帰って欲しそうにしていた。
ちなみに、見上げるほどでかいといったのは俺の主観の話だ。
店員の身長は高く見積もっても170前後。高くもなく低くもない平均程度な高さだ。
だが俺の目線はそれよりも30センチ近く下にある。
俺は自慢じゃないが、身長はなんと140を割り込んでいる。
昔からのコンプレックスで話題にされるたびにぶち切れていたものだが、
今ではそんなことを気にしてもどうにもならないと開き直ってしまっているため、
改めて指摘されない限りは無視する事にしている。
それはさておき、店員さんは申し訳なさそうな口調を作って俺に言う。

「あの、その、あまり店内で雄叫びを上げられたりくねくね踊ったり携帯を放り投げたりすると、
他のお客様のご迷惑になりますので、そのぉ…」

一見へりくだっているが何故かストレートに罵倒された気分になった。
困ったように愛想笑いを浮かべる店員。全身から隠しきれない帰れオーラが出ている。
最も、そんな事は今の俺には関係ないのだが。

『そんな事より店員さん。なにここの品揃え。
右を向いても左を向いてもパチモンパチモンパチモン。
どっかの会社が作ったゲームを真似て俺たちもやってみましたといわんばかりな筐体の山は』

669 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 11:43:05.38 ID:clEc7qra0
俺は携帯のディスプレイを突きつけながら険しい表情を作る。
その店員は、あいかわらず視線だけで「とっとと帰ってくれねぇかな」とぼやきながら頭を下げた。

「えっ、その…会社の方針、ですので…私には分かりかねますが、クレームなら事務所の方に」
『ああ、違う違う』

途端に、眉をひそめる店員。
コイツ嘘をつけない性格なんだなと頭の片隅で好感を抱きながらも、俺はやっぱり率直に、文章を打つ。

『そうじゃねぇよ。俺はサイコーだっつってんだ』

店員の目が点になったのを、俺は見た。
間違いない。あれほど濃厚に発散されていた帰れオーラも突然消滅する。
ああ、この相手が目を丸くしてる感覚、嫌いじゃねぇなと思わずゾクゾクしてしまったが、
とりあえず、携帯を使って相手にこちらの意思を続けて伝える。

『諸君。私はパチモンが大好きだ。
如何にもパクりましたっていう感じが好きだ。
その哀れな存在感が好きだ。何気にあまり公に売られていないという事実が大好きだ』

文章を打ちながら、俺は右肩に背負ったリュックを下ろし、NTSをやさしく、丁寧に入れる。
下手に揺らして傷がついたら大変だ。
内部のベルトでしっかり固定し、チャックを閉め、あいかわらず呆然としている店員さんに肩をすくめて続きを読ませた。

『だからさ、俺はこの店にクレームつけようとか文句言って叩き潰そうとか思わないわけ。
むしろ大・歓・迎!! この世のエデン! パチモンたちの桃源郷!!
あっちのキルチィ・キーマとかどんなダンスれぼるーしょんとか、
もはやバレバレすぎて公表した途端叩き潰されるゲームとの出会いを与えてくれたこの店に感謝っ!
今後ともひいきにさせてもらいたいっ! またとない出会いに
あンりんがとぉぉぉぉおおおお!! …な心境なわけ。わかる?』

671 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 11:56:04.75 ID:clEc7qra0
「わからねぇよ」

と、いきなり店員の、先ほどからの低い姿勢が決壊した。
あわてて口を押さえる店員。
だが、俺は軽く飛んで肩に手を置いてやった。
爪先立ちで無理をしているが、このくらいどうということはない。
この店に出会えた感動に比べたら。

『いいんだぜ、兄ちゃん。俺の前ではそんなストレスしか溜めない仮面を剥ぎ取れ。
俺が許す。他の誰が文句をつけてきても俺だけは許してやる。
だから嘘をつくのはやめちまえ。見ていて痛々しいだけだ。
どうせ他の客なんていねぇんだし、思う存分素の自分を曝け出すがいい。
苦労してきたんだからたまには報われたってイイじゃないか。
…な?』

店員が視線をこちらに向ける。そしてそれは、口にしなくても全てを物語っていた。
えっ、いいんすか? 俺結構口悪いっすよ? あとからやめてって言われてもおそいっすよ。
…思わず、小さく笑みが漏れた。
なんか可愛いなこいつとかなんとか思いながら、俺は、力いっぱい、頷いてみせる。
それとほぼ同時にマシンガントークが炸裂した。

「んじゃああえて言わせてもらいますがね、
何でさっきからこんな味噌っかすみたいなゲーセンで、
どこからどう見ても絶対にソレはまずい! な商品ばかり嬉々として持っていくんですかね。
版権対策か斜めキーしかないダンスゲームで2000円も使ったり、
カウンターに飾ってあるガンガルのプラモを恍惚とした表情で眺めてるんすかね。
俺にはさっぱり理解できないっすよ。
近場で俺みたいな奴を雇ってくれる奇特な店長に誘われてバイトを始めても
客はこねぇわきたらきたで散々笑い倒すわと明らかにダメゲーセンなこんな場所で、
なんでアンタはそんなに笑ってられるんすかね?」

674 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 12:08:50.82 ID:clEc7qra0
なんだそんな事か。と、俺は思った。口に出して説明できないのが残念だが、
あえて先ほどと同じように携帯を見せた。

『…パチモンだろうがニセモンだろうが、
例え金儲けのためにだけ作られた劣化製品だろうが関係ない。
ようは、そいつらを、使ってやれるかどうか。この一点につきるわけ。
俺はな、生まれつきかなんだか知らないがあまり言葉を喋れない。
こんなご大層な妄言を並べるのにもいちいち携帯が必要なわけ。
だから、俺はこの携帯を持ってる。
ただ安さだけで選んで、文字が打てればそれだけでいい中古の携帯だ。
一個千円だか二千円だかの安い、古くなったからというだけで使われなくなった携帯だ。
それでも、ほら、こうやって文字を打って、お前に俺の意思を伝えられるじゃないか。
俺が喋れなくても、古臭くなっても、こうして役に立ってくれてるだろ?
ソレと同じさ。
ブランドなんて名前でしかない。
俺は使えれば例えパチモンだろうがブランドだろうが関係ないし、
何より、せっかく存在するのに使ってもらえない事は道具にとっては一番悲しい。
「なにこれやだパチモンじゃんー」って捨てられるTシャツだって、まだ着れる。
「うはwwwwww何これwwwwww任○堂じゃねぇwwwwwwww」って言われてもゲームは出来る。
欠陥があるかもしれない。データが飛ぶかもしれない。それはそれでいいじゃないか。
○ニータイマーだって、時間が来るまで使ってやって、そのときには既に愛着が沸いちゃうだろ?
俺だけかもしれんが、データが消えたらまた最初からやってくれってメッセージだと思う。
使えなくなったら、きっとパチモンもホンモンも、そこまで使い潰してくれた事を喜んでくれるかもしれない。
…ホンモンもニセモンも、使ってやって本望なんだろう。
だから、俺は世間の奴らが排斥したこいつらを拾って、使ってやろうと思った。
触れる前から外見で拒絶された奴らを、俺は例え不器用でも使ってやろうと思った。
そこにあるんだから、きっと誰かに認められたいんだと思っていたはずな、こいつらを。
俺は認めてやりたいと思ったから。
…それで、十分だろ?」

676 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 12:19:20.88 ID:clEc7qra0
「…それは、」

俺は店員を手で制した。首を横に振り、先ほどよりも速い速度でキーを打つ。
その手先に視線を感じたが、それどころじゃない。
ソレさえ、気にならない。
ヒートしすぎている。自覚はある。
けれどここでやめちゃいけない、と俺の奥で何かが囁く。

『…ま、半分以上は俺のエゴさ。
お前が間違ってると思うならそれで良い。俺は一人でゲームしたりして楽しんて、それから帰る。
お前がその行動を間違ってると糾弾するのも自由、無視するのも自由。
何故か? お前には拒否する権利もあるし無理して肯定する義務なんてないから。
俺が、そう思ったから。
俺が、愛しいと思ったから。
それだけはガチ。だから、俺はパチモンを集める。以上。
そりゃ、頷いてくれればうれしいけどさ、俺にそこまで強要する権利もまたない。
ただ、俺は今さっきまでの文章、全部本気だぜ。
嘘は絶対についていないと断言する。
これから先、どうするのもお前の自由だが、俺は止まらんぞ。
集めるのは楽しいし、見つけるのも楽しいし、使ってやるのはもっと楽しいからな」

…ふぅ。これで、全部。
常人なら指がつりそうな勢いで思った事全部ぶちまけちまった。
何も言わず、ただ呆然とこちらを見る店員。
返答がないようなので、俺は次の獲物でも漁ってみるかと背後を振り返り、一歩を踏み出す。

「…待ってくださいっす」

俺は声に引き止められて、首だけ振り返った。

677 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 12:28:29.25 ID:clEc7qra0
「…俺頭悪いっすから、よく分からなかったけど、
アンタが、本気だって事はわかったっす。
俺も、…いろいろあって、グレて、捨てられた身ですから、ちょっとはまあ、わかります。
誰からも必要とされないって、悲しいっすよね。
アンタが…いや、あなたが本気で、そういうハズレモンを拾っていこうとしていたのは、分かりました。
生意気な事言ってすいませんでした。
俺の店…ってわけでもないし、高々バイトの身でこんなこと言うのもおこがましいですけど、
よかったら、遊んでいってやってください。
ちょっとだけでも、お付き合いしますから」

痒い、痒いなぁコイツ。
何でそんな事恥ずかしげもなくポンポンと言えるかねぇ。
まあ、終わったあと照れたようにうつむいて頭を書いているあたりちょっとキュンとしないでもないし、
多少なりともわかっていただけて何より。
うん、悪くない。たとえ偽善であってもいいかな。
…遠まわしであっても、肯定してもらえるのは悪くない。
だから、というわけでもないが。
俺は無意識のうちに目を背けて、思わず一言呟いていた。

(*'A`)「・・・マンドクセ」

偶々視界に入ったガンシューゲーム、『タイム暗いです3』に200円放り込んで、
二つの画面に、別々に出現する敵キャラの股間と股間と股間を打ち抜いていく事に、俺は没頭していた。
店員が心なし晴れ晴れとした顔でカウンターに引っ込む姿が、画面の反射で見えなかったこともない。

678 ('A`)毒男はパチモンハンターのようですが… New! 2006/06/15(木) 12:37:48.67 ID:clEc7qra0
2時間ほど遊び倒して3周ゲームを攻略した俺は、今日もまた戦利品と共に帰宅する。
NTSにクエストステーションポータブル(QSP)、
ついでに某ねずみのマスコットによく似たタコの縫い包みを抱えて、
軽くなった財布をポケットの中に感じていた時だった。

「ありがとうございましたー!!」

振り返れば、両手を大きく振る店員。
澄み切った笑顔で大仰に手を振って、俺を見送ってくれているらしい事を理解する。
そうなると、途端に恥ずかしくなって、顔を背けた。
多分、俺の鉄面皮がまたオーバーヒートしているのだろう。
携帯をいじれる状態ではなかったので、俺は手にした縫い包みを掲げて振ってみる。
シュールな、と言うかちょっと人目が気になる姿だったと思う。
そう考えたら、いきなり走り出していた。
背筋が痒い。視線を感じる。イタイイタイイタイ視線の雨を四方八方から感じながら、
俺は明日にでももう一度行ってみるかと思って、天を仰いだ。
黄昏に染まる夕日がまぶしい。


終わり

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