303 スプリガン New! 2006/06/13(火) 23:51:07.81 ID:+zpKELmIO
ロンドン発掘施設。
日本が内密で調査した超古代遺跡。
年端もいかない天才考古学者の少女が、汗を流しながら現場を指揮していた。
名前はツン。

ξ;゚听)ξ「そこ!気を付けて!
あんたも!急ぐのよ!」

('A`)「へーい」

自分より一回りも年下の少女に命令されても、人夫達は一言も文句を言わない。
ツンが優れた指揮者だということが分かっているのだ。

ξ;゚听)ξ「……『アーカム』の人はまだかしら。
急がなきゃ、変な組織に嗅ぎつけられちゃう」

アーカム。
超古代文明の遺産の守護、封印、破壊する組織。
発掘当初、ツンは遺跡の護衛を頼むつもりはなかったのだが、発掘が進むにつれて、とんでもない事実が判明したのだ。

ξ;ー匆)ξ「ハァ……。
やっかいな事にならなきゃいいけど」


304 スプリガン New! 2006/06/13(火) 23:52:21.63 ID:+zpKELmIO
ツンの視線の先には、大きな岩が転がっている。
天頂部に、細い岩が突き出ているその姿は、あまりにも異質に見えた。

『おいすー』

ξ*゚听)ξ「あ、アーカム財団の人!?
現場指揮者のツンで
ξ゚听)ξ「……何よあんた」

ツンの顔が期待に輝き、一瞬で険しくなった。
目の前に立つ男は、それほど冴えない顔をしていたのである。
デブでにやけた顔のくせに胸元にはしっかりとアーカムのロゴ。
ツンは自分の感情に嘘をつく事無く男を睨み付けた。

(;^ω^)「あの、“スプリガン”内藤ホライゾンですお。
ど、どうぞよろしく……」

スプリガン。
アーカム財団の超特級エージェントの別称。
――なのだが、内藤のオドオドした態度と妙な語尾には信憑性がまるでない。
内藤が握手の為に伸ばした手を、ツンは無視した。
重苦しい沈黙。

('∀`)「……ダセェ」

二人の様子を見て人夫達がクスクスと笑いを洩らした。

306 スプリガン New! 2006/06/13(火) 23:53:40.94 ID:+zpKELmIO
(;^ω^)「あうあう……。
――あ、あの刺さってるのが聖剣カラドボルグかお?」

沈黙に耐え切れず、内藤が大岩を指差した。
ツンの顔が和らぐ。
やはり女はお喋りが好きなようだ。

ξ*゚听)ξ「そうよ、あの剣が――」

カラドボルグ。
別名、エクスカリバー。

アーサー王の伝説などに登場する、あまりにも有名な聖剣。
この剣の真価は鞘にあり、所持する者の血を流さなくする効果があるという。
今まで実在はしないとされていたが、ロンドン大聖堂地下に超硬度の岩塊が発見された事により発掘チームが編成された。
発掘当初は岩塊のみの調査予定だったが、岩塊に刺さる謎の金属が発見された。

ξ゚听)ξ「――という訳でアーカム財団に連絡したの」

( ーωー)「……ぐぅぐぅ」

ξ#゚听)ξ「ブチ殺すわよ」


307 スプリガン New! 2006/06/13(火) 23:55:33.06 ID:+zpKELmIO
ツンは立ったまま寝ている内藤の脛を蹴っ飛ばした。
奇声を上げて飛び上がる内藤。
うっすらと涙が滲んでいる。

( ;ω;)「おっおっお。
……何で早く抜かないんだお?」

ツンの顔が曇り、溜め息が出た。

ξ;ー匆)ξ「抜けないのよ……。
岩が硬すぎて破壊も不可能。
削る事は出来るけど、いつになるやら……」

肩を落とすツンに、内藤は無邪気に笑った。

( ^ω^)「だいじょぶだお!
何の為に僕が来たと思っているお?」

拳を握り、胸を叩く内藤。
その音は洞窟内部に反響し、人夫を驚かせる。
慌てたのはツンだ。

ξ#゚听)ξ「馬鹿!落盤を起こす気!?」

( ;ω;)「ゴホッゴホッゲホッ!」

どうやら胸を強く叩きすぎたらしい。
なんとも頼りないスプリガンだ。


308 スプリガン New! 2006/06/13(火) 23:56:28.48 ID:+zpKELmIO
ξ;゚听)ξ「で、あんたはどうやってあの剣を抜くつもり?」

( ^ω^)「超古代文明には、超古代文明だお!」

言うが早いか内藤はツンの手を取り走りだした。
ツンは真っ赤になって俯いている。
男と手を繋ぐ事に慣れていないのだ。
内藤はお構いなしに岩塊に付けられた階段を登った。
聖剣には見えない細い岩の前に立ち、柄に当たる部分を握り締める。

ξ;゚听)ξ「む、無理よ。
ウインチでもダメだったのに……」

何をするか悟ったツンが静かに声を掛けた。
静かに、というのは、内藤を包む空気が一変したからだ。
頼りなく、情けない内藤の姿は消えている。
妖精、スプリガンは自由に姿を変えるのだ。

( ^ω^)「A・M・Sの力、見てるお」

A・M・S。
アーマード・マッスル・アーマーの略称。
超古代文明の精神感応金属、オリハルコンを使った特殊強化服。
最大の特徴は使用者の筋力を三十倍まで増強する事。
それは超古代文明と現代最先端技術の融合した姿。


310 スプリガン New! 2006/06/13(火) 23:57:24.82 ID:+zpKELmIO
そんな事は知らないツンを尻目に、内藤は徐々に力を込めてゆく。
歯を食い縛り、腰を落とし、全力で。
オリハルコン繊維がきしむ音をツンは聞いた。

(#`ω´)「おぉぉおぉおっっっ!!」

内藤の身体は今や二回り以上膨れ上がり、顔からは汗が滴り落ちてる。

ξ;゚听)ξ「キメェ」

(;^ω^)「どおぉぉおぉおっっっ!?」

その言葉と同時に内藤の身体が後方に吹っ飛び、遥か下まで転がっていった。
――聖剣ごと。
現代最先端技術は聖剣を制したのだ。

ξ;゚听)ξ「ちょっと!
カラドボルグ返せ!!」

慌てて階段を駈け降りるツンに、内藤を心配する様子はない。
彼は大丈夫だという予感があった。


311 スプリガン New! 2006/06/13(火) 23:58:26.14 ID:+zpKELmIO
『来るなお!ツン!!』

緊迫した内藤の声がツンの耳に届く。
足を止めて彼の様子を伺うと、信じられない光景が目に入った。

ξ;゚听)ξ「……みんな」

内藤を囲む、いつもツンに優しくしてくれた人夫達の姿と、その内の一人が携えた聖剣。
聖剣は先程まで覆われていた岩が剥がれて、刄を洞窟内に晒している。

('A`)「……やっと手に入れたぜ。
ありがとよ、スプリガン」

ξ;゚听)ξ「……最初から目を付けられていたのね。
道理で世紀の大発見の割に邪魔がなかったわけだ」

人夫全員がグルだった。
その事実にツンの瞳から涙が零れる。
いくら気が強いとはいえ、まだまだ少女なのだ。

('A`)「悪いな、お嬢ちゃん。
聖剣の試し切りをさせてもらうぜ」

打撃音と悲鳴が発掘所に反響した。

(;'A`)「な、なんだ!?」


312 スプリガン New! 2006/06/13(火) 23:59:18.83 ID:+zpKELmIO
男の視線の先には洞窟の財宝を守護する妖精の姿だけがあった。
男の仲間は全て地に伏している。
妖精の名は、スプリガン。
(;'A`)「く、来るんじゃねぇ!
この女、殺すぞ!」

ツンの背後に廻り、聖剣を細い首にあてがう。
内藤が訝しげに顔をしかめた。
男からは見えないが、ツンは首を傾げた。

( ^ω^)ξ゚听)ξ「そんな剣で何をするつもり(だお)?」

聖剣はぼろぼろに朽ち果てて、やがて刄が腐り落ちた。
伝説にはこうある。

――アーサー王が騎士道に反した時、剣が折れた、と。

呆然とする男の顔面に内藤の拳がめり込んだ。
スーツの力で強化された腕力に彼は吹っ飛び、ものすごい勢いで壁に叩きつけられ動かなくなった。


313 スプリガン New! 2006/06/14(水) 00:00:23.32 ID:kl5PqTHnO
ξ゚听)ξ「……終わったね」

(;^ω^)「残念ながら、まだだお」

発掘所全体が揺れ、無数の小石が降り注ぐ。
内藤が暴れすぎたらしい。

ξ;゚听)ξ「ちょっと!逃げるわよ!!馬鹿!!
私をおんぶして行きなさいよね!!」

(;^ω^)「ヒデェ(おっぱいが気持ちいいお)」

ξ#゚听)ξ「なんか変な事考えてるでしょ」

(;^ω^)「女のカンは鋭い〜のよ〜♪
ぜ、全速力で行くお!
ブーーーーン!!」

ξ;゚听)ξ「はえぇ!」

二人と、地響きに気付いた人夫達が大騒ぎしながら去った後、揺れる発掘所で男が目覚めた。
確かに顔面が陥没した気がするが、なんともなっていない。
男の手には聖剣の鞘が握られていた。

('A`)「この鞘か!?
これさえあれば無敵じゃねえか!!」

男の哄笑は発掘所の崩壊と共に消えてゆく。
そして、ロンドン大聖堂が謎の地盤沈下により壊滅した。


314 スプリガン New! 2006/06/14(水) 00:01:22.02 ID:kl5PqTHnO
セーヌ川の畔、二人の男女が向き合っている。
両人とも砂埃に塗れ、みすぼらしい姿だ。

ξ#゚听)ξ「まったく、散々な目にあったわ!」

少女が髪を掻き上げると、パラパラと小石が路上に散らばった。

( ^ω^)「……ツンはこれからどうするお?」

顔を埃だらけにした男が少女に尋ねた。
その顔にはなぜか期待が込められている。

(;^ω^)「もしよかったら、アーカムに来ないかお?
主戦力がごっそり抜けて、人手不足なんだお……」

男の問い掛けに、少女はしばらく思案した。
その時間は短かったが、男にはひどく長く感じる。
少女は首をどう振るのか。

ξ゚听)ξ「やーよ。
私は命の駆け引きなんてしたくないもの」


315 スプリガン New! 2006/06/14(水) 00:01:58.42 ID:kl5PqTHnO
男は肩を落とし、きびすを返した。
背中には哀愁が漂っている。
その背中に抱きつく少女。

ξ////)ξ「わ、私を命かけで守ってくれるなら、考えなくもないわ!」

(*^ω^)「うは、おK!」

男は少女をおぶって走りだす。
その速さは霧を切り裂き、男の仲間と待ち合わせしている場所まで止まる事は無かった。

――一回だけ何かにぶつかった様な気がする。

(;'A`)「ちっきしょう!
スプリガン、覚えてやがれよ!!」

聖剣の鞘を握った男が、セーヌ川を泳ぐ。
自分を弾き飛ばした男が見えなくなるまで、彼は悪態を吐き続けた。

終わり


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